「NuGetでプラットフォーム毎にアセンブリを展開する方法」と「良い感じにコードを共有してプラットフォーム別のアセンブリを作る方法」
2016-11-24
いろいろと思ったことを忘れないように書いておこうと思います。
最近は.NET Standardとかいろいろありますが、もちろんすべての状況においてすべてのコードが共通化できるわけではありません。というわけで、この投稿では
- NuGetでプラットフォームごとに異なるアセンブリを展開する方法
- CoreFXを覗いてちょっと真似てみた、良い感じにコードを共有してプラットフォーム別のアセンブリを作る方法
をご紹介します。あまり詳しくないので、間違っていたらご指摘お願いします。
NuGetでプラットフォームごとに異なるアセンブリを展開する方法
まずはこの話題についてお話しします。
CoreFXを例にとって話を進めていきましょう。 皆さんもご存知の通り、CoreFXは.NET Coreなどで使われるBCL(基本クラスライブラリ群)を提供する、という重要な立ち位置を担っている存在です。 CoreFX自体はC#で書かれていて、モジュールごとに細かく分かれた状態でNuGetから入手することができます。
私たちはプラットフォームを気にせず、簡単にそれらを使うことができますが、CoreFXを開発する側は「コードを1つ書いてコンパイルして、はい終わり」で済むはずがありません。 例えばSystem.IOなどを考えてみると、答えは明らかでしょう。 パスの区切り文字や使える文字種も違いますし、そもそもWindowsとLinuxで同じシステムコールやAPIを呼び出せるわけではありません。 レイヤーが低くなるにつれて、少なくともプラットフォーム依存なコードを書く必要が出てくるでしょう。
「じゃあ1つのアセンブリを提供して、プラットフォーム依存の部分は条件分岐とかで切り替えて処理を行っているの?」と聞かれたら、そういうわけでもありません。 それは単純に分岐処理分の実行時間が無駄になりますし、バグ修正や事前コンパイルのコストが大きくなってしまうでしょう。
ということで、どのようなことをやっているかというと、NuGetからリストアするときにランタイムごとに異なるdllを引っ張ってきています。 実際にNuGet Package Explorerとかで探してみるとわかりやすいでしょう。例えば”System.IO.FileSystem”を検索してみると、下の画像のようになります。
お目当てのSystem.IO.FileSystemの他にも、runtime.linux.System.IO.FileSystemやruntime.osx.10.10.System.IO.FileSystemなどが見えると思います。
「これはどういうことなんだ…」そう思いながら、次は(System.IO.FileSystemの依存関係にもある)”Microsoft.NETCore.Targets”を検索し、openしてみましょう。 この中のruntime.jsonを見ると、すっきりすると思います。(少なくとも私はしました)
runtimesの中に”win”だったり”osx”だったりといろいろありますね。つまり実行するランタイムによって、落としてくるNuGetライブラリの中身を変えていることが分かります。 これは実際にローカルにあるNuGet Cacheを見るとはっきりするかと思います。
「じゃあ、いつも参照にいれてる”System.IO.FileSystem”って何なのさ!?」と思って、再度System.IO.FileSystemの中身を開いてみましょう。 NuGet Package Explorerで開くと以下の画像のようになっていると思います。
結論から言うと、.NET Standardにおける、このパッケージの最も大きな役割(の1つ)は”開発時のインターフェースを提供すること”です。 どういうことかというのは、CoreFXのSystem.IO.FileSystemのリポジトリを見に行ってみるとわかります。
corefx/src/System.IO.FileSystem at master · dotnet/corefx
refというフォルダの中にはSystem.IO.FileSystem.csというファイルが1つだけあり、さらにその中身は、シンボル一覧みたいなものでしかありません。 で、実装はどこにあるのかというと、これはsrcの中に入っています。 これらをビルドした後、前者が”System.IO.FileSystem”、後者が各ランタイムとしてNuGetに公開されています。
嘘だと思うなら、dotPeekとかを使って、NuGetから落としてきたそれぞれのdllの中身を覗いてみましょう。前者はシンボルはあるものの、すっからかんのはずです。
さて、こんな感じのことを実現するNuGetパッケージを作る方法ですが、答えは非常に簡単で、CoreFXと同じようなディレクトリ構造を作るだけで実現できます。 と言っても、あまりに大規模でなければ、CoreFXのように複数のランタイムパッケージを公開せず、1つのパッケージだけで完結したほうが楽です。
1つのパッケージで異なるランタイムを対象とした複数のアセンブリを展開するには、以下のようなディレクトリ構成にします。
NuGetのディレクトリ構成例
├─ref
│ ├─net46
│ │ FooLibrary.dll
│ │
│ └─netstandard1.5
│ FooLibrary.dll
│
└─runtimes
├─linux
│ └─lib
│ └─netstandard1.5
│ FooLibrary.dll
│
└─win
└─lib
├─net46
│ FooLibrary.dll
│
└─netstandard1.5
FooLibrary.dll
このようなディレクトリ構成にすると、Visual Studioなどで開発しているときはrefのほうのdllを参照し、実際に動作させるときやデプロイを行うときは、runtimes以下の各プラットフォームのdllを使うようになります。
ここで、linuxやwinは_RIDのカタログ_の中から指定しています。 このRIDは階層構造を持っているので、例えば対象のランタイムが狭い順に…
ubuntu.14.04-x64 < ubuntu14.04 < ubuntu < debian < linux < unix < any
となっています。最新のカタログはcorefx/runtime.json at master · dotnet/corefxから参照することができます。
またnet46やnetstandardの部分は、NuGetのドキュメントにあるTarget Frameworksから適切なものを引っ張ってきましょう。
で、ここでやっぱり疑問に思うわけです。
_「どうやって良い感じにコードを共有してプラットフォーム別のアセンブリを作れば良いんだ…」_と。
というわけで、次の章に続きます。
良い感じにコードを共有してプラットフォーム別のアセンブリを作る方法
ここではCoreFXを参考にして、良い感じにコードを共有する方法を考えてみましょう。何度も言いますが、あまり詳しくないので、間違っていたらご指摘お願いします。
結論から言うと、System.IO.FileSystemを把握する上で注目すべきファイルは以下の3つだと思います。
- corefx/FileSystem.cs at master · dotnet/corefx
- corefx/System.IO.FileSystem.csproj · dotnet/corefx
- corefx/System.IO.FileSystem.sln · dotnet/corefx
分かりやすくするために、簡単なプロジェクトを作ってみました。
bonprosoft/FooLibrary: 良い感じにコードを共有してプラットフォーム別アセンブリを作りたい
ざっと解説していきます。
ref/FooLibrary
いつも通りプロジェクトを作った後、外部に公開するシンボルを記述していきます。
ちなみに、今回はSayHello関数とSayHelloFromYourEnvironment関数を公開して、前者をプラットフォームによらず同じメッセージを出力、後者をプラットフォームごとに違うメッセージを出力する仕様にしてみます。
src/FooLibrary/Greeting.cs
どちらのプラットフォームでも動作するようなコードを記述していきます。ここではSayHello関数の実装を行っています。
なお、このGreetingクラスには、残りのプラットフォーム依存の関数を実装する必要があります。そこで、_クラスにpartialキーワードをつけてあげる_のを忘れないようにしてください。
src/FooLibrary/Greeting.Linux.cs , src/FooLibrary/Greeting.Windows.cs
プラットフォーム依存のコードを記述していきます。ここで同様にpartialなクラスにコードを記述していきますが、Windows側とLinux側のソースコードには同仕様の同名の関数を定義したため、“同じ型のパラメータで既に定義しています"と怒られるはずです。
そこで次にcsprojとslnを書き換えていきます。いったんVisual Studioを閉じるか、ソリューションをアンロードしてください。
src/FooLibrary/FooLibrary.csproj
src/FooLibrary/FooLibrary.csproj
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L6 - L9
プロジェクトのビルド構成をVisual Studioに認識させています。別に書かなくても動くと思いますが、CoreFXのリポジトリではそう書かれているので念のため…。(すみません)
L10 - L14, L15 - L19
Linux向けとWindows向けでコンパイル対象となるソースコードを変えています。特に12行目と17行目に着目すると良いでしょう。
なおCoreFXでは、TargetsUnixのような便利変数をいろいろ用意していたりします。 これらはCoreFXのトップディレクトリにあるdir.propsで定義していて、「各ソリューションごとに用意するのがめんどくさいので、各階層のdir.propsを再帰的にImportするようにして、設定やフラグも一括で管理できるようにした」という感じです。
特にソリューションが複数あるような大規模な開発をされている方は、参考にすると良いと思います。
FooLibrary.sln
FooLibrary.sln(例)
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L6, L8
まずはプロジェクトのGUIDをメモしておきます。src/FooLibraryは55B625BD-321A-4D75-A864-3B6758E32524、ref/FooLibraryは06B68D1C-873D-4F90-9AB7-AA8D51FAA5CDですね。
L11-L16
ソリューションのビルド構成を定義します。ここでは"Linux_Debug”,“Linux_Release”,“Windows_Debug”,“Windows_Release"の4つの構成を定義しています。
L17-L34
L6, L8でメモした、それぞれのプロジェクトGUIDを使って、ソリューションのビルド構成とプロジェクトのビルド構成の対応付けを行っています。
例えば、src/FooLibrary(L18-L25)であれば、それぞれソリューションのビルド構成と対応した名前のビルド構成を適用するように設定しています。
しかし、ref/FooLibrary(L26-L22)は、そもそもLinuxやWindowsの区別はありませんので、ソリューションのビルド構成によらず、DebugかReleaseのどちらかに対応付けています。
ここまでやって、再度Visual Studioでソリューションをロードすると、良い感じにビルド構成が読み込まれているはずです。
ちなみに、Visual Studio 2017 RCでは、ツールバーからビルド構成を変更すると、ソリューションエクスプローラで表示されるファイルも良い感じに連動して変更されたのが、とても印象的でした。
実際にビルド&パッケージ化
“Windows_Release”, “Linux_Release"でそれぞれビルドを行うと、それぞれ良い感じの出力ディレクトリにdllを吐き出してくれますので、これらをNuGetパッケージにまとめましょう。
nuspec, nupkgともに、NuGet Package Explorerを使うと簡単に作成することができます。参考までに構成のスクリーンショットを載せておきます。
実際にパッケージを使ってみる
作成した.nupkgを適当なディレクトリに入れて、NuGetのパッケージソースに追加しましょう。
Visual Studioであればオプションダイアログから操作するのが最も簡単です。
LinuxとMacであれば ~/.nuget/NuGet/NuGet.config
に、以下のような行を追加するのが良いでしょう。
NuGet.Config
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あとはFooLibraryへの参照をNuGetパッケージマネージャーを使うか、csprojもしくはproject.jsonを直接変更して追加した後、コードを記述していきます。
例として以下のようなコードを記述します。
Program.cs
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実行してみましょう。
Windowsで実行した場合は以下のようになります。
Linuxで実行した場合は以下のようになります。
このように、最終行のメッセージがプラットフォームによって変わっていることが分かりますね!
Framework-dependent DeploymentとSelf-contained Deployment
「ソースコードからビルドしたときはちゃんと動くことは分かった、じゃあデプロイしたアプリケーションの動作するプラットフォームが変わったらどうなるの?」
ということで、最後は発行に関するお話をしたいと思います。
.NET Coreの発行には、ポータブルアプリケーション(アプリケーションのアセンブリと依存ライブラリのみを固めたもの)とSelf-containedなアプリケーション(アプリケーションと依存ライブラリのほかに、実行ランタイムも含めて固めたもの)があります。参考1 参考2
Self-containedなアプリケーションの場合には、あらかじめproject.jsonなどでruntimesを指定するので大丈夫そうですが、ポータブルアプリケーションの場合はどうでしょうか?
実際にやってみましょう。
先ほどのサンプルプロジェクトで dotnet publish --configuration Release
してみます。
すると、以下のようなディレクトリ構成を持つpublishディレクトリが出力されました。
ポータブルアプリケーションの出力ディレクトリ構成
│ SampleConsoleApp.deps.json
│ SampleConsoleApp.dll
│ SampleConsoleApp.pdb
│ SampleConsoleApp.runtimeconfig.json
│
└─runtimes
├─linux
│ └─lib
│ └─netstandard1.5
│ FooLibrary.dll
│
└─win
└─lib
└─netstandard1.5
FooLibrary.dll
つまり、ちゃんとWindowsでもLinuxでも動くように、runtimesディレクトリが分かれてくれています。
dotnet publishしたものを、WindowsとLinuxそれぞれで動かしてみます。
はい、ちゃんと動いていますね!
おわりに
というわけで、いかがでしたでしょうか。
さらっと紹介しましたけど、はまりポイントはいくつかあって、その最も大きなポイントが
refとsrcで外部に公開しているシンボルの不一致が発生する
です。
Visual Studioやコンパイラが参照するのはrefのdllなので、コンパイル時にはエラーは発生しませんが、実行時に「シンボルが見つからない」というエラーが発生します。
これはソリューションの規模が大きくなればなるほど、非常に大きな問題となるでしょう。(ちなみに私はこの程度の規模のライブラリでそれをやらかしました)
CoreFXでは、これに対応するために様々なツールが用意されています。
テストを書いて実行しているのはもちろんですが、それ以外にもApiCompatなどのツールを使って、refで定義されたシンボルの実装が正しく行われているか確認しています。
もっと良い方法があるかもしれませんので、この投稿へのコメントか、Twitter @bonprosoft へリプライいただければ幸いです。
Acknowledgement
今回の投稿の内容を調べるにあたって、グロサミにて、岩永さんにいろいろとキーワードやきっかけをいただきました。ありがとうございました。
ここで書かれている内容などに関しては、私の見解ですので、この内容が必ずしも正しいというわけではありませんので、ご了承ください。
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